理工学部、建築・環境学部教養学会主催第19回ミニ講演会
理系学生のための公開英語講演会
English Lecture Meetings for Science-Major Students
On the Vibration of Buildings:
A Case Study of Engaku-ji Shariden
講師:建築・環境学部 高島 英幸 先生
本講演会において高島先生は円覚寺舎利殿の振動特性に関わる自らの研究に基づく講演をされた。前段では地震による振動と建物の揺れに関する基礎知識の導入が行われた。また英語講演会ではあるが、受講者の理解を容易にするため、必要に応じてところどころ日本語による専門的な概念の説明を行い受講者の理解を図りながら講義を進められた。単振動(simple harmonic motion)という現象が、周期(period)、経過時間(elapsed time)、 回転角(rotational angle)、角変位(angular displacement)、角速度(angular velocity)などの概念に基づいて説明された。また、「1自由度系振動モデル(single degree of freedom vibration model)」について説明をされ、建物の振動を考える場合には単純化モデルが通常用いられ、そのモデルは水平方向にのみ伸縮するバネとそれに乗った質量によって表すことが出来ることが示された。つぎに建物の単純化振動モデルについて説明がされた。建物の通常の地震の揺れにおける変形である「せん断変形」(shear deformation)の解説の後、地震の振動により引き起こされる慣性力(inertia force)を考慮する際は、建物の上半分の重量のみが建物の重量と見做されること、建物の二本の柱のせん断剛性/曲げ剛性が建物の水平方向への抵抗(剛性)を表すことなどについて説明された。
後半においては円覚寺舎利殿についてのご研究を紹介された。
13世紀に建造された円覚寺舎利殿は一見2階建てに見える屋根に似た裳階(もこし)という庇状の構造物、三手先斗栱(みてさきときょう)と呼ばれる深い軒を支えるくみ、海老虹梁(えびこうりょう)とよばれる曲線形状を持つ梁の一種などの構造物を特徴としており、仏陀の遺骨を納めているといわれている。講師は歴史的建造物としての円覚寺舎利殿の価値の維持を目的として、i) 3次元有限要素解析モデルの精度を上げる試み、ii) 建物の支持条件(Boundary Condition (= Support Condition) )、 個々の部材接合部の曲げ剛性(Individual Connections’Bending Stiffness)を考慮した固有値解析 (eigen-value analysis)の結果、 iii) CGツールAⅤSを用いたウォークスルー・3Dアニメーション、フライスル―・3Dアニメーションの制作の過程などの紹介を詳細に行った。
結論として、1)舎利殿の剛性と重量が振動の固有値解析により模擬的に実験可能となり、実地調査の結果と比較できること、2)解析モデルの構材の配置を確認するためのCGアプリケーションAVS(Advanced Visual Systems)による3Dアニメーションが作成できたこと、3)作成したアニメーションを通じて、円覚寺舎利殿のような歴史的な木造建造物の特徴や保存への理解を啓蒙することで、建築学の領域からの寄与が可能であることなどを述べられた。
最後に以下のような聴講者からの質問が寄せられ、時間の許す限り回答された。
(聴講者よりの当日の質問)
Q. Does the nature of vibration change depending on the kind of building materials?
建築材料で振動の性質は変わるのですか?
Q. I have heard of a strong structure for buildings called “Honeycomb Structure” whose name derives from beehives. Are there any other structures which derive from other creatures than humans?
建物の構造で、蜂の巣に基づいたハニカム構造という強い構造があると知ったのですが、ハニカム構造の他に生物に基づいた構造はありますか?
Q. In this country, we have had earthquakes quite frequently. Why is it possible for many old buildings to remain intact in Japan?
日本は昔から地震の多い国ですが、なぜ古い建物も建っていられるのですか?
Q. Shariden looks like a two-storied building because of its extra roofing called “Mokoshi.” Does it have any effect on its resistance to earthquakes?
舎利殿は屋根が二重構造になっているので(裳階(もこし))二階建てに見えます。2つ屋根があることで耐震に関して屋根がひとつの場合と変化はありますか?
Q. Nowadays stakes are driven into the ground for the buildings’ resistance to earthquakes. Did people adopt the same technique in the old days?
今は地震に耐えられるように地面の下に杭を打ちますが、昔でも変わらないですか?
Q. What is the fundamental difference between historic buildings and the modern architecture with respect to earthquake-resistance?
歴史的建造物と現代建築では耐震はどのように違いますか?
Q. What kind of devices are used to protect modern high-rise buildings from earthquakes?
近代高層ビルを地震から守るためにどのような工夫がされていますか?
2018年6月25日(月)実施