理工学部/建築・環境学部教養学会では、2015年7月9日に理科系学生のための英語の講演会「電流戦争」(講師:理工学部電気学系(電気・電子コース/健康・スポーツ計測コース) 植原 弘明 先生)を開催しました。
はじめに、植原先生は、1880年年代後半の電力事業黎明期のアメリカにおいて、実用化されるべき電力輸送として直流、交流のどちらを採用するかを巡っての利権争い、いわゆる電流戦争(War of Currents)が起こったことを紹介しました。直流電流は時間によって流れる方向(正負)が変化しない電流であり、交流電流は時間とともに周期的に向きが変化する電流です。直流は送電線のコストが安価であるという長所と同時に、電流の遮断が難しいことや電食などの短所もあること、一方、交流では電圧の変換が可能であること、周波数の制御、設備のコストパフォーマンスが良いなどの長所と同時に、熱の量が少ない、電力融通が困難であるなどの欠点があります。トーマス・エジソン陣営が直流送電(DC)の使用を提案したのに対して、ニコラ・テスラとジョージ・ウエスティングハウス陣営は交流送電(AC)の使用を主張しました。この争いの結果として、直流を提唱するエジソンが敗れ、交流を提唱するテスラが勝利をおさめたことのことです。
つぎに、東日本大震災の際の電力不足の際に問題として浮き彫りになった、西日本と東日本の交流周波数の違い(西日本/60ヘルツ、東日本/50ヘルツ)という点についての説明がありました。歴史的な経緯において、西日本はアメリカから発電機を導入しましたが、東日本はドイツから導入しました。その周波数を現在においても統一することが困難である理由は主に、設備を作り直すことに伴う財政的な問題であるとのことです。また、大量の電力を長距離間で輸送する場合には、電力損失の少なさによるコストの軽減の観点から、高電圧電力輸送が用いられていることを、このシステムが広く行われているヨーロッパの実例をもとに説明がありました。
つづいて、エジソンの推進した直流送電システムの現実的な問題について説明がありました。19席紀末のアメリカ東海岸の大寒波の際には、雪の重みで太い直流電力網が崩壊しニューヨーク市で犠牲者が出たとのことです。一方、携帯電話、LED, 太陽電池、電気自動車などのすべての電池式の装置は直流電流の製品であること、また、インバーター技術により直流を交流に変換する日本の私鉄の電車などについての説明もありました。さらに、セルビア系移民で、蛍光灯、テスラ・コイル、交流誘導電動機などの多数の発明、無線送電システムの提唱などで有名なニコラ・テスラの、変圧器を用いた電圧の変換・交流配電システムを紹介するとともに、交流の製品の例として冷蔵庫、洗濯機、自動車のモーター、新幹線などを示しました。
さいごに、植原弘明先生は、電流戦争の結果とは裏腹に、現在はエジソンの創設したエジソン・エレクトリック・ライティング・カンパニーの後身であるゼネラル・エレクトリック社が電力業界に君臨し、ウェスティング・ハウス社はすでに存在しないこと、また、前者はジェット・エンジン、MRI, ガス・タービンなどを生産し、後者は、2名の発明家で従業員であった、ニコラ・テスラと変圧器を発明したウィリアム・スタンリーの名を残すのみとなったことを紹介するとともに、直流電流、交流電流の利権争いの歴史にもかかわらず、その両方が必要であること、特に直流電力輸送はその経済的な便益から見直されているとの説明がありました。
Q&Aセッションでは、聴講者から以下のような質問がありました。
Q: The name of Nikola Tesla seems much less familiar to people than that of Thomas Edison? I wonder why.
Q: Is the conversion of voltage still difficult in DC power transmission even in modern technology?
Q: Why is it difficult to unify the two different AC frequencies still existent in Japan?
Q: Why are there so many High Voltage Direct Current transmission lines established in Europe?
Q: I learned from the text that in Edison’s DC distribution system electrical power was generated and distributed at the same voltage as was used by the customer’s lamps or motors. If that is the case, was Edison planning to build a lot of power plants near towns and install a lot more electric wires around them?
Q: Recently, I heard news that a Japanese research team succeeded in the experiment of transmitting electrical power generated at the solar panels of a satellite to the earth. Is this the same technology as that Tesla showed in one of his experiments using Tesla Coil?