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[理工学部、建築・環境学部教養学会ミニ講演会] (第74回理科系学生のための公開英語講演会)Capillary Pumped Loop: Expertise for Heat Transfer『キャピラリーポンプ』


(理工学部、建築・環境学部教養学会ミニ講演会)
第74回理科系学生のための公開英語講演会


           Capillary Pumped Loop: Expertise for Heat Transfer
                   『キャピラリーポンプ』

                               講師: 理工学部理工学科、先進機械コース
                                           辻森 淳 先生
     




 理工学部、建築・環境学部教養学会では2025年5月26日(月)に、理工学部理工学科、総合機械コースの辻森淳先生を講師として招聘し、機械的な力を用いない冷却装置であるキャピラリーポンプループ(毛管作用によってくみ出されるループ)を主なトピックとする英語講演会を開催した。上記タイトルによる9回目の講演会であった。キャピラリーポンプループとは技術試験衛星VIII型 (ETS-VIII)に搭載された毛細管作用を利用した熱移送装置である。

 宇宙は人類にとって常に憧憬の的であったが、科学の発展に基づく宇宙開発競争の結果、宇宙旅行の切符さえもが可能な時代となった。今日、地球の周囲を回る多くの人工衛星は、我々の地球上の生活を支えるための極めて現実的な仕事をしているが、人工衛星には多くの電子機器が搭載されており、その性能の向上とともに扱われる情報量は増え熱流量が増加している。これらの機器も地上の機器と同様に熱を持つと消耗して故障する恐れがあるが、小型化する機器の熱源に隣接する形で冷却装置を設置することは難しい。また冷却装置が故障した場合には修理が必要になるが、人間を一人宇宙に送るのには2億5千万ドルのコストかかり修理人を人工衛星に派遣することは非現実的である。従って人工衛星に搭載された機器の発する熱の管理を行う冷却装置は故障をしてはならない。講師の研究課題は故障する可能性が限りなく小さな冷却装置を開発することにある。

 機器の冷却装置が故障しないためには、それが故障の可能性の高い機械的なメカニズムを持たないことが望ましいが、液体の毛細管力による毛細管現象をラップトップ・コンピューターの冷却に用いているヒートパイプは地上の小さな機器における成功例である。ティッシュ・ペーパーを水に浸すと機械的な力を借りることなく毛管現象により水は引き上げられ、その水が熱負荷により蒸発するとさらなる水がティッシュ・ペーパーに継続的に引き上げられる。






 ヒートパイプではこの現象が毛管作用を生じさせるウィック(芯)と冷却剤のみからなる一本のパイプにおいて再現され、熱の移動が行われている。ヒートパイプにおける熱の移動範囲は極めて短いが、この原理を過酷な宇宙環境での使用の為に熱荷重1200ワットを15メートル移送できるように開発された装置がキャピラリーポンプループであり、JAXAにより新たに開発された技術試験衛星「きく8号」において用いられている。

 講師は蒸発装置と凝縮装置とから成るキャピラリーポンプループの構造と機械的なポンプを要せずにこのポンプが熱流量の多い領域から外気へ熱を逃がす仕組みを紹介した。

 さらに赤外線映像によりキャピラリーポンプループ内、ヒートパイプ内、熱伝導の各々の熱移動の場合における内部の熱分布を示され、この順番の通り、キャピラリーポンプループ内での熱移動が3者の中では最も小さな温度差で生じうること、またキャピラリーポンプループではヒートパイプよりもはるかに長い距離の熱の移動、またはるかに大きな熱量の移動が可能である理由を各々、冷却剤の流れの方向の違い、ウィックの直径の差から説明された。






 講師は最後に、本メカニズムに関する今後の更なる研究課題として、より効率の高い冷却液の発見や開発など、「常識に捕らわれない更に柔らかな頭」で再検討すべき点が多くあることを挙げ理科系聴講者の興味を喚起した。また彼らへの助言として、国際会議などの場において本学の卒業生を含む研究者が英語を手段として研究結果を発信している実例を紹介し、研究の道具としての英語の学習の大切さを強調した。

 質疑のコーナーにては、何故機械的なポンプよりもループヒートパイプの方が宇宙においての信頼性が高いのか、ループヒートパイプは人工衛星全体の温度管理にも用いられているのか、ループヒートパイプの口径と熱移送能力との関係、作動液が漏れる心配は無いのかなどの質問が行われ、すべてに講師より丁寧なご説明を戴いた。記して感謝致したい。下記は質疑のうちの一つである。









辻森先生は最後に、ループヒートパイプの開発における喫緊の課題として、十分な熱量が存在しないとシステムが作動しない場合があるという点を挙げ、改善策として作動液を沸騰し易くする素材の開発に従事されている旨を受講者に伝えた。

                                     2025年5月26日開催


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