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[理工学部、建築・環境学部教養学会主催ミニ講演会] (第73回理科系学生のための公開英語講演会) Exploring the Dynamic High-Energy Universe 『激動の高エネルギー宇宙への旅』



(理工学部、建築・環境学部教養学会主催ミニ講演会)
第73回理科系学生のための公開英語講演会

             Exploring the Dynamic High-Energy Universe
                 激動の高エネルギー宇宙への旅

                       講師:理工学部、数理・物理コース 中嶋 大 先生





 理工学部、建築・環境学部教養学会では2025年5月15日(木)に、理工学部数物学系、中嶋大先生にご講演を依頼し、上記タイトルによる英語講演会を開催した。中嶋先生による同名のタイトルによる英語講演会は6回目となった。講師の研究分野は物質を構成している最小の単位である素粒子のレベルで宇宙を観察することによってその成り立ちを解き明かすことを目的とする高エネルギー宇宙物理学であり、講師は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究員として宇宙の研究に携わり、X線天文衛星「ひとみ」を運ぶ日本の代表的なロケットHII-Aロケットの開発、打ち上げなどに関わってきた。本英語講演会では広く宇宙の高エネルギー現象の紹介から天文衛星による高エネルギー宇宙物理学観測に及ぶ様々な話題が取り上げられた。
 講師は、可視光とエックス線とでは波長が異なるために放射のプロセスが異なり、見え方が異なるという事実をオリオン座、太陽の画像で示した。可視光もX線も電磁波の一種であるが、赤外線、ミクロ波、ラジオ波なども電磁波であり各々の波長の幅は大変大きい。ウィルヘルム・レントゲンによって1895年に発見されたX線も0.01~10nmの波長をもつ電磁波であるが、人体の組織や骨の輪郭などを映し出す強く浸透する力から「謎の光線」という意味でX線と名付けられたものである。天体は電磁波を放射するが、例えば太陽の黒体放射は電磁波が放射される過程である。




 天体が放射するX線はその観測を可能にするので、X線のもとで明るいものが観察可能なものということになる。X線の中の黒体の温度は非常に高く、100万ケルビン~1憶ケルビンの熱いガスがX線を発し観察される。ブラックホールからの多くの噴出物もX線下では明るい。超新星爆発の残骸も明るく、巨大な若い星のような物体を含む分子の雲も明るく、短時間の時間的変化を起こす中性子星、ブラックホールのような10キロメートルほどの小さな物体も明るく観察の対象となる。
 次に講師はX線による観察の対象である天体の一つとして特にブラックホールを取り上げ説明した。アイザック・ニュートンの思考実験に従い山の頂上から砲丸を投げた場合、砲丸が加速され毎秒11キロメートルの速度に至ると、地球の重力から解放されて宇宙に飛び出ることになる。然し仮に地球の質量が大きくなりその半径が小さくなると、砲丸が地球の重力から解放されるために必要な速度が大きくなり、地球がその質量を保ったまま半径9ミリメートル以下の大きさになると秒速30万キロメートルの速度である光さえも地球から逃げられなくなり、そのような天体の状態をブラックホールと言う。銀河の中央に位置するサジタリウス・A・スター(射手座A*)はまさにブラックホールであり、大凡4×10の6乗の太陽の質量をもつので、多くの星がその星の周囲を回っている。
 天体が、光が逃れられない物体であるブラックホールになる条件はその質量により異なり、太陽はその質量を保ってその半径が約3キロ以下になるとブラックホールとなる(このような意味での天体の限界半径は「シュワルツシルド半径」と呼ばれる)。ブラックホールは光が逃れられないので可視的ではないが、気体のような物質がブラックホール周辺に円盤を形成し、これがX線を放出しているためX線による観察が可能である。2019年に国際チームにより最初に画像が撮られたブラックホールは地球からは5500万光年の距離があるもので、おとめ座の方向の楕円銀河M87の中心に位置し太陽の65億倍の質量をもつ。そのシュワルツシルド半径は太陽系の上に重ねると冥王星までが入ってしまうほど大きい。2022年には天の川銀河の中央に存在することが予測されていたブラックホール、サジタリウス・A・スター(射手座A*)の映像が撮影され大きな話題となった。




 天体の観察の方法は天体から届く電磁波により異なり、可視光は地球大気を通過して地上に届く割合が高いので地上からの観測が可能であるが、波長によっては全く地上に届かない電磁波もある。X線は大気内の原子や分子に吸収されてしまうので、観測のためにはカメラを大気の外へ持ち出す宇宙天文台による観測が必要となる。講師が開発に携わってきた2023年9月に種子島宇宙センターH-IIAロケットで打ち上げられたXRISM(クリズム)は全長5メートル以上、質量は2.3tのX線観測衛星であり、天体からのX線が望遠鏡に届くと反射して検知器に集まり天体のX線画像が作成される。




 このように高エネルギー天文学では優れたカメラを自分たちの手で作り人工衛星として天文台を打上げて観測を行うが、講師は最後にそのような観測の成果として期待されることとして、星がその一生の最後に起こす爆発の瞬間にチタンなど特別な元素が合成されるがそれを精密に測定することで爆発のメカニズムに迫ること、宇宙最大の天体である銀河団を観測することでダークバリオンと呼ばれる宇宙に存在することは分かっているが目には見えない特殊な物質の正体を解明することなどに言及し、関東学院大学の学生の宇宙物理学研究室への訪問を歓迎する意を表した。
 質疑のセッションにて中嶋先生はすべての質問に対して詳細な回答を提供し、受講者の更なる興味を喚起した(下記は一例)。




                                    2025年5月15日開催

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