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[理工学部、建築・環境学部教養学会ミニ講演会](第75回理科系学生のための公開英語講演会)Brain and Drug Addiction: Brain Can Modulate Reward System『脳と薬物依存』


[理工学部、建築・環境学部教養学会ミニ講演会](第75回理科系学生のための公開英語講演会)

                   Brain and Drug Addiction:
                 Brain Can Modulate Reward System
                       脳と薬物依存

                                講師: 理工学部、健康科学・テクノロジーコース
                                               簑 弘幸 先生






 理工学部、建築・環境学部教養学会では2025年5月29日(木)に、理工学部理工学科、健康科学・テクノロジーコースの簑弘幸先生を講師として招聘し、標記タイトルによる英語講演会を開催した。簑先生による今講演会の開催は8回目となった。

 講師は本講義の目的を「違法な薬物の使用を回避すべき理由を神経工学、生体情報工学の観点から説明すること」と位置づけ、マリファナやコカインの作用を脳の働きから説明した。

 中枢神経系は脳と脊髄とからなり、脳内では数十億のニューロン(神経細胞)が活動電位と呼ばれる極めて弱く、且つ極めて速い電気信号を用いて互いに情報を交換している。脳には異なった役割を担ういくつかの領域があるが、特に腹側被蓋野ventral tegmental area から側坐核nucleus accumbensに至る報酬経路と呼ばれる領域において我々人間の「快感」や「幸福感」が管理されている。




                          (from the homepage of National Institute on Drug Abuse)


 活動電位はニューロン内の各部位soma, dendrite, axonを移動し情報が伝達され、一つのニューロンから隣接するニューロンへはシナプスと呼ばれる間隙が介在し、その間は電気信号の代わりに化学物質である神経伝達物質ドーパミンが情報の受け渡しを担う。

 このようにして報酬経路である腹側被蓋野ventral tegmental area から側坐核nucleus accumbensに至る経路、さらに前頭前野皮質prefrontal cortexに至る経路に起こる情報の伝達の結果、人は満足感、快感の感覚を得る。

 電気的な刺激により快感が得られることはラットの実験からも明らかであるが、快感は生活における自然の刺激ばかりではなくマリファナやコカインのような薬物の作用によっても創出されうる。然しながら自然の刺激の場合とは異なり、薬物の摂取は摂取者に「耐性」(tolerance)、「依存」(dependence)といった効果をもたらし、薬物使用者には生理的な反応として禁断症状が起こる。そしてこれを避けるために使用者は再び薬物を摂取するという悪循環に陥る。

 マリファナを吸引すると主な有効成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)の濃度が上がり特に報酬経路が影響を受けるが、講師は具体的にシナプス間においてどのような相互作用が起こり、その結果ドーパミンの分泌が促進され快感の継続が健全な程度を越えて維持されてしまうのかという点を詳しく紹介した。

 マリファナには中毒性があるが自然界に存在する天然成分であり、人体内にも存在する成分である。一方、人工的に作られた化学物質であるコカインはマリファナとは異なった作用をシナプス間において引き起こし、ドーパミンの正常な再利用に障害を引き起こす。その結果ドーパミンはシナプス間隙に滞留してしまい、快感が異常に創出されてしまう。




                          (from the homepage of National Institute on Drug Abuse)


 コカインの反復的使用を行うと、報酬的感覚を得るためにはコカインに頼らなければならなくなり(tolerance)、正常な刺激による報酬の快感を得ることが出来なくなる。動物実験においても中毒症状に陥ったラットは自らにコカインを投与し続ける。




                          (from the homepage of National Institute on Drug Abuse)


 講師はマリファナとコカインの作用をその違いを含めて詳しく紹介したが、ヘロイン、モルヒネ、アルコール、ニコチンなど他の中毒性の薬物は報酬経路において各々が異なった作用を起こし、ドーパミンの分泌を促進する点に言及した。

 本講演において聴講者は、脳内の報酬系(腹側被蓋野ventral tegmental area+側坐核nucleus accumbens)において正常な快感が創出され学習の動機づけなどの精神活動が正常に制御されていること、薬物はこの報酬経路における神経細胞間のシナプス伝達synaptic transmissionに変調を引き起こし、結果として人の精神状態を悪化させることを学んだ。

 薬物の使用に関してはその違法性の議論を含めて社会的、倫理的、更には経済的観点からもしばしば議論がなされるが、講師の講演を通して薬物使用下での脳の神経細胞における変化を具体的に知ることにより、脳科学の観点からは明らかに薬物の使用は人体にとって有害であるという疑いのない事実を多くが理科系の学生である受講者は改めて認識することが出来た。

 質疑のコーナーでは質問に対して講師より詳細な回答をいただいた。多くの質問に全て対応できる時間がなくLMSにての事後の対応を行った。下記は質疑の一部である。

Q. learned in the preview material that messages travel within a neuron in the brain in the form of electrical impulses. My question is: “Are those impulses similar to digital signals made only of two states, that is, on and off, or 0 and 1?”
A. It’s really an interesting question asked from a viewpoint of digital technology, as you are from the information network and media course. Yes, they are. The time series of spikes or impulses is mathematically modeled as a “zero-one” process. When the action potential happens, the time series value takes “one”. Otherwise, the value takes “zero”. It’s called a random point process, in the research field of stochastic processes. I am very interested in that kind of research. Let’s talk about this after this class.


                                        2025年5月29日(木)開催

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