理工学部/建築・環境学部教養学会では、2015年11月26日に理科系学生のための英語の講演会「歩行の科学 – 身近な歩行を考える – 」を開催しました。今回の講師は、理工学部電気学系(電気・電子コース/健康・スポーツ計測コース)の 高橋 健太郎 先生です。
高橋先生は、人間の運動を科学的に研究する身体運動学 (kinesiology) について、「歩行」(gait) を例に紹介しました。身体運動学は、人間、動植物、生物の器官、細胞などの生物のシステムの構造や機能を力学的に表現する生体機構学 (biomechanics) の分野の一つです。
まず、歩行のサイクル、歩行の研究に関する用語、歩行に使われる人間の筋肉についての説明がありました。ヒトの歩行は、体重が両足で支えられている段階と、片足で支えられている段階とが交互にあらわれますが、そのサイクルはStance Phase(片足支持期)、Double Support Phase(両脚支持期)、Swing Phase(遊脚期)に分類されるとの説明がありました。また、歩行を考察する際に重要なstride width, stride, step cadence, foot-ward angleなどの用語について説明するとともに、歩行による移動の特徴として、頭部、骨盤の上下動、体の回転があげられ、歩行に関わる様々な筋肉とその機能について紹介しました。
つぎに、高橋先生と川口 港 先生(理工学部電気学系助手)の共同研究である “Characteristics of Gait in Elderly People with Exercise Habit” の内容についての説明がありました。この研究は、運動の習慣のある年配者の歩行の特徴の分析を目的としています。従来、年配者の歩行分析研究においては、年配者の歩行の特徴として、加齢によってSwing Phaseにおける膝の屈曲の角度が減少することや、Stance Phaseのheel contactにおいて足首の背屈の角度が減少すること、膝を十分に拡張することが出来ないなどの特徴がみられることなどが指摘されていました。この研究では、健康な20歳前後の若者と運動習慣のある健康な73歳前後の年配者の被験者グループに対し、歩行時の筋電図(EMG)の信号をもとに股関節および膝関節の回転モーメントと角度、また、足関節の回転モーメントを算出し、歩行分析を行いました。結果として、股関節の屈折の回転モーメントおよび角度、足首の屈曲の角度において、健康な若者のグループよりも運動習慣のある年配者のグループのほうに著しく高い値が観察されました。また、歩行に関わる筋肉の筋電図の二乗平均平方根値においても健康な若者のグループよりも運動習慣のある年配者のほうに著しく高い値が観察されました。この研究から、運動習慣のある年配者の歩行は、歩行訓練で達成されるのと同じ程度の運動効果を達成するように修正されているということが判明しました。
最後に、運動靴と筋肉の使用の関係についてのEMGに基づく実験の結果についての説明がありました。被験者が普通の運動靴をはいた場合と、ソールの形状が柔らかい運動靴または硬い運動靴をはいた場合の筋電図の値を観察すると、柔らかい運動靴または硬い運動靴をはいた場合のほうが、ふくらはぎ、すね、太ももの裏側、尻の筋肉を歩行において多く使っているとのことです。
高橋健太郎先生は、寝たきりにならないために転ばない歩き方を習慣づけることが大切であることを強調し、講演を締めくくりました。