キャンパスライフ

ミニ講演会-共通科目-

イベント

 
理工学部共通科目教室では、2014年5月に下記の3件の共通科目ミニ講演会を実施いたしました。各回においてご担当の講師が、学系の枠を超えた学生に対して、卑近であるが興味深い話題についてご専門の観点から英語でご講演をされました。参加者である工学部の学部生、研究生からも、三つの理科系の話題に対して興味深い質問が英語でされました。ご講演を担当いただいた、北村美一郎先生、簑弘幸先生、飯田博一先生には多くの時間を割いていただき、教材作成にご尽力いただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。ご講演の概要は以下の通りです。
 

「パブロフの犬」
講師:北村 美一郎 先生
 

 ロシアの生理学者アイバン・パヴロフは犬の消化の研究をしている際に、餌を与えるため助手が部屋に入ってくるたびに犬が唾液を垂らすことに気付いた。パブロフは実験を推し進めて、犬に餌を提供する際に同時にベル(メトロノームという説もある)の音を聞かせた。これを繰り返して(条件づけ)を行うと、犬はやがて、餌が与えられない場合でも、ベルの音を聞いただけで唾液を垂らすようになった。北村美一郎先生はこのようなパヴロフによる「条件反射」の行動の発見の経緯を説明された。
 

 上記の実験において、食物に対する記憶の度合いは、犬の唾液の量を測ることによって数値化された。北村先生は更に空間的な記憶に触れられ、この記憶も数値化することができることをマウスの実験の例をあげて例示された。空間的な記憶とは、被験者のおかれた環境と方角に関する記憶である。ミルク色に濁った水をたたえたプールの中にマウスを放して泳がす。プールの中にはマウスが乗れる台があるが、濁って見えない。プールの周囲に背景として色のついた模様などの景色をつけて、マウスが水中の台の場所を探す手がかりを与える。トレーニングを受けていないマウスはでたらめに泳ぐので、台を探しあてるまでに長い時間がかかるが、トレーニングを経たマウスはあまり時間をかけずに、長い距離を泳ぐこともなく、水中の台にたどり着くことができる。この実験は、マウスが「環境」を手掛かりとして「方角」を探し当てることに成功することを例示している。
 

 行動心理学の基礎となった「パブロフの条件づけ」は、現在の研究にも継承され、遺伝子やタンパク質といった分子レベルでの記憶のメカニズム解明の域に至っている。北村先生は更に小さな動物にも適用することを示す例として、コオロギの縄張り争いの例など、ご自身の実験の例をもご紹介された。例えばミミズは、光に反応し体長を収縮させるが、(日本のミミズは地震に慣れているのか)地面の振動にはあまり反応しないという。しかしながら、光と振動を同時に与えて条件づけを行うと、いずれ振動だけで体を収縮させるようになる。
 

 北村先生はパブロフの条件付け(古典的条件づけ)が、様々な生物の行動に適用する普遍性の高い学習の原理であることを広い例をもって示された。
(2014年5月1日(木)開催)
 
 

「脳と薬物依存」
講師:簑 弘幸 先生
 

 簑 弘幸先生は脳の中の快感回路(報酬系)という領域において「快感」が司られていること、「快感」は電気的な信号の伝達と化学的なスイッチとの連携によって作り出されることをご説明された。更に科学的なスイッチの仕組みの中において、神経伝達物質ドーパミンの分泌がどのようにスイッチの役割を果たすのかを示された。そしてこのような正常な「快感」の創出の過程にマリファナやコカインのような薬物が、どのように化学的に干渉し、正常な「快感」の創出を「異常」なものに変えるのかをスライドをお使いになり可視的に示された。
 

 薬物の乱用の問題は事件後の報道において、しばしば社会的、および倫理的観点から論じられるが、濫用に至るまでの生理学的な(科学的な)観点からの理解は余り一般的には得られていないように思われる。この点において、簑先生の御講義は、薬物への依存が「意志」の力によって断ち切ることのできない真に危険な性質のものであることを科学的な観点から示された。簑弘幸先生の御講義に触れ、受講者はこの問題の深刻さを理科系の観点から理解するとともに、「薬物乱用者=犯罪者=モラルの欠如した人」という紋切り型の社会的評価を見直す貴重な機会を得た。
(2014年5月29日(木)開催)
 
 

「ろうそくの炎から考える化学」
講師:飯田 博一 先生
 

 ろうそくは2300年前に中国で発明されたとされ、光を取るばかりでなく、熱を得るため、時間を知るためなどの用途にも用いられてきた。ろうそくは炭素、水素、酸素からなるロウの部分と芯の部分とからなる。このろうそくの芯に火をともしたときに「ろうそくが燃える」という事象が起こるわけであるが、飯田先生は「ろうそくが燃える」という時に燃えているものとは何なのかという問いかけをされた。また、ろうそくが燃えた後には美しい窪み(cup)がろうそくの頭の部分に出来上がるのはなぜであろうかと問われた。
 

 これらの疑問に対する答えとして、飯田博一先生はマイケル・ファラデーの研究(The Chemical History of a Candle:1861年Royal Institution におけるクリスマス講演の記録)を紹介された。空気が燃えているろうそくに近づくと、ろうそくの熱が作り出す気流の力で上昇する。そしてそれは、ろうそくの外壁の温度をその内部よりも下げる。ろうそくの内部は芯を伝わって降りてくる炎により溶けるが、ろうそくの外壁は溶けない。これにより美しい窪みが、ろうそくの頭に出来上がる。
 

 では、何が燃えているのであろうか。ロウ自体は炎にあてても燃えないことを飯田先生は映像によって示された。一方、「燃えている」ろうそくの頭の窪みには溶けたロウが液体として存在する。
 

 ファラデーは固体のロウ自体は燃えないが、溶けたロウは可燃性の気体に変化すると指摘した。炎を作るために必要なものは可燃性の気体と空気のなかの酸素の両方である。毛細管現象により、重力に反して溶けたロウの液体が芯に引き上げられる。燃料と酸素は化学反応を起こし、光が生ずると同時に燃料は消費される。
 

 上述のファラデーの研究を、映像を用いてご紹介されたのち、次に飯田先生は、炎の色が何故、様々なバリエーションを持つのかについてご説明された。炎の色はその温度によって異なり、異なった化学物質を加えると異なった色になること(flame test、炎色反応)をご説明された。
 
 飯田博一先生のご講義は日常の何気ない事柄にも大きな疑問や精密な科学的な仕組みが働いているという事実を「ろうそくの炎」という具体例によって示された。
(2014年5月30日(金)開催)

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